016.願いごと
「トリスの願い事は、何?」
シャムロックが突然そう聞いたせいだろう、トリスは目を丸くして、はい?と聞き返してきた。
「何?急に」
「いや、聞きたいなと思ってね」
「突然そういわれてもなぁ…」
ギブソン・ミモザ邸の居間でのんびりとクッキーを齧りながら、トリスは自らの頭上を見上げるようにして考え込む。
どこか困ったようなその顔に、シャムロックは少しだけ決意が揺らぎそうになる。
そんな顔をさせたくて聞いているわけではないのだ。
きっかけは、フォルテの一言。
いまだ『恋人同士』としては亀の歩みの自分達に、一歩進む策を授けてくれたのだ。
曰く、トリス本人に今一番の願い事を聞いて、それをさり気なく叶えてやれ。
この際、不器用なシャムロックに対し『さり気なく願っていることを聞き出す』案を提供しなかったのは長年の付き合いゆえだろうか。
不器用ならばいっそストレートに聞いてしまえと、そういわれたのだ。
それで叶えた後に、彼女からあの時はそのために聞いたのかと思われても、それはそれでOKだと。
「あ、打倒メルギドス!」
想定の範囲内の、あまりにトリスらしい案の定な答えが返ってきて、シャムロックはほっとするやらがっかりするやら。
「そうじゃなくて。トリス個人で何か、ない?」
「うーん……あると言えばあるけど」
「それは何?」
「スタイル良くなりたいかなぁ。パッフェルさんみたいに」
ダメだ。そんなもの叶えられない。
これがフォルテであればまた対応も違っていたのかもしれないが、シャムロックにこの手の答えは酷というものだ。
「えーと…ほ、他には?」
「他に?えー…?うーん……」
考え込むトリスを目の前に、自分にはこの作戦は向いていないのではと思えてきた。
そもそもがこういう事には疎いのに、それに輪を掛けた事をしているような気がする。
言えば言うほどぼろが出てしまいそうだった。
戦いに於いての画策は出来るのに、こと色恋沙汰となるともうどうしていいのか分からない。
それがまして、自分の事となると余計に混乱してしまう。
「あ!うん、あるよ。願い事」
「え?な、なに?」
やがてトリスが思い出したように言って顔を上げると、シャムロックは思わずどもりながら聞き返してしまった。
そんなシャムロックの様子を見て、トリスはにっこりと微笑む。
齧っていたクッキーをそのまま目の前にいるシャムロックの口に放り込んで、ゆっくりと言葉を続けた。
「誰かさんがもっと、積極的になってくれないかなーって」
口の中に広がる甘さを飲み込んでも、上手く言葉が出て来ない。
フォルテにありのままを報告したら、また笑い飛ばされてしまうだろうか。
けれどもなんとか叶えられそうな願い事に、シャムロックは赤面交じりの笑顔で応えた。
Fin
間接KISSだったりします。うふふ。(笑)
2005.08.09
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