014.友人以上恋人未満

初めて『彼ら』と出逢った時から、『単なる兄妹弟子』には見えなかった。

毒舌ではっきりと物言う兄弟子であるネスティは、それでも言葉の端々に『愛情』を感じた。

また無邪気で無謀でそれでも明るく前向きなトリスは、ネスティの言葉に嫌そうな顔をしながらも、何か『特別』な思いがあるように思えた。

色恋沙汰に疎い自分にも、彼らの関係はきっと世間で言う『友人以上ではあるが恋人ではない』という、微妙な関係なのだろうと思っていた。

だから、自分がトリスに惹かれていると気がついても、それで彼女を混乱させ、傷つけるまいと思っていたのだ。

 

「あたしが、ネスを好きだと思ってたってぇ?!」

 

出逢った当初の印象を正直に吐露したとき、トリスはシャムロックの思った通り…頓狂な声を上げた。

紆余曲折はあったものの、晴れて『恋人同士』となった今にして思えば、なんとも不思議なことなのだが。

あの時感じた二人の関係は、自分の思い過ごしであったと分かっている。

けれど同時に、自分にはどうしようもない、それもまた大切な『関係』であるという事も。

 

「私でなくても、初めは皆そう思ったと思うよ…」

「そうかなぁ…あんなにいっつも、喧々怒られてばっかりだったのに?」

「愛情ある叱り、にしか見えなかったから」

「……妬いた?」

「少しね」

 

トリスの問いに僅かに笑って答えると、目の前の彼女は照れたように笑った。

 

「素直だね」

「…そうかな?」

「うん、そう」

 

今は余裕があると言うことだろうかと、シャムロックは苦笑する。

 

「ネスはね…ずっと一緒だったから。本当に『兄妹』みたいな感じなんだと思う」

 

孤児だった自分、召喚師としての才覚を見止められ、半ば監禁されたような毎日。

それを、真の理由がどうあれ救ってくれたのはネスティと、その養父ラウルその人のお陰なのだ。

言うなれば『家族』。

そう、彼らとトリスは紛れも無く『家族』なのだ。

 

「遠慮しない言動も、『家族』だからこそできるわけでしょ?」

「うん…そうだね」

「そういう点では、シャムロックこそまだまだよ?」

「え?」

「遠慮。してないとは言えないでしょ」

 

トリスにちろりと見上げられて、シャムロックは思わず押し黙ってしまった。

 

「それは…だって」

「だって、じゃないの!シャムロックは『友達以上恋人未満』でいいの?!」

 

むぅ、と唸るトリスを目の前に、シャムロックは蛇に睨まれた蛙のように『う』『あ』と言う事が精一杯だった。

そもそもこうして二人で歩いていて、好き同士で居て、それで友達もなにもないのだけれど。

シャムロックに、ネスティのような言動をしろというのは無理な話だ。

トリスもそれを求めているわけではないだろうけれど、シャムロックに『遠慮するな』というのも酷な話だ。

 

「…ど、努力…する、よ」

「ん、よろしい♪」

 

そう言って、トリスはするりと腕に抱きついてくる。

急に抱きつかれてどうしていいのか分からずに慌てるシャムロックを見上げて、トリスは悪戯を思いついた子供のような顔で笑った。

 

「あたしも、遠慮しないから。取り合えず貴方は、それを全部受け止めてくれなきゃ困るのよ」

 

抱きしめられた右腕に、力が込められる。

甘えるような目で見上げてくるトリスの頬を、自由な左手でそっと撫でて。

 

「――すべて、受け止めるよ。必ず」

 

そう言って、シャムロックは優しく微笑んだ。

Fin

砂が…砂が…!!(げふ)
2005.07.31

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