013.未来予想図
幸せな未来を夢見ることは、誰にでも許されることだと思う。
それを実現できるかどうかは、それからの努力次第だ。どんな『未来』でも、その可能性はゼロではないハズだから。
だからトリスはにっこりと笑って、ミニスとアメルが振って来た質問に答えたのだ。
「みんな、将来何になりたい?」
一時の安寧、夕飯後のお茶を飲みながらの事。初めの問いは、そんなたわいのない物だった。
「ミニスちゃんはどうなの?」
アメルが問うと、ミニスはえへんとばかりに胸を張って誇らしげに答えた。
「当然、立派な召喚師よ!お母様に認められるような、ビックリする位立派になるの」
「ミニスは今だって立派じゃない」
「え?そうかなぁ…そんな事ないわよぅ」
トリスがそう言って笑うと、ミニスは照れたように言葉尻を濁した。
「あたしは…お嫁さんかなぁ」
「アメルらしいわね」
「うふふ、それでね、お家には小さな畑を作って…お芋を作りたいな」
「随分具体的ねぇ」
クスクスと笑うアメルに、ミニスとトリスもつられて笑う。
「…で、トリスは?」
「あたし?うーん…そうだなぁ…」
立派な召喚師、というのも捨てがたいが、それだけと言うのもなんとなく面白みにかける気がした。
所詮想像の未来予想なら、多少の夢を織り交ぜてもいいだろうか。
「色々旅して回るのも面白そうよね。ほら、あたしって大人しくしてるの性に合わないから」
「あら、でもいつかはどこかに落ち着かなくちゃ」
「そうねぇ、結婚でもしたらそうしなくちゃかなぁ」
クスクスと笑いながら、紅茶を一口。
アメルの言葉になんとなく含みがあるような気がしたのは気のせいだろうか。
周りで同じように紅茶を口にしている面々の視線が、なんとなく痛いような。
「私は…そうだなー、ステキな恋愛結婚をして、子供は二人くらい欲しいかなぁ」
「ミニスが子供が欲しい、なんて、なんか違和感あるなぁ」
「失礼ねぇ!」
言いながらも、ミニスもトリスもクスクスと笑いあう。
アメルは人差し指を口元に当てて、やんわりと微笑んでいた。
「あたしは…孤児院を開いて、みんなのお母さんになりたいな」
「アメルならできるわよ、似合うもん」
「トリスさんは?」
「はへ?」
「そう、トリスは?」
「そうだなー…あたし孤児だったから、結婚したら子供はたくさん欲しいかな」
がっちゃん。
途端、陶器が割れる派手な音がした。
そこでトリスは気がついた。
今のこの場は、皆が全員揃っているわけで。
自分の『未来予想図』に今現在高確率で(否、間違いなく)関わってくるであろう人も、この場に居たわけで。
自分が語った未来の『叶う確率』が、一番高いものであろう事にようやっと気がついたのだ。
案の定、音の主を振り返れば、シャムロックが真っ赤な顔で割れたカップを慌てて片付けている。
シャムロックの隣に居た、フォルテのニヤニヤとした目線が痛かった。
「じゃあ、トリスさんのお相手は大勢の家族を養えような甲斐性が必要なんですね」
にっこりと笑って言われたアメルの言葉に、今度はトリスも真っ赤になってしまう。
思い描く未来予想図は、暖かい日差しと、大勢の子供に囲まれた幸せそうな自分。
そんな誰よりも優しく見つめる――最愛の、伴侶。
家族なんて、子供なんて、まだ実感は湧かないけれど。
かなえて欲しいと願えば、絶対に叶えてくれそうな人が居る。
今はただ、それだけでも幸せだった。
真っ赤になった当人同士の視線が、互いの目に留まる。
そして視線を合わせたまま、トリスとシャムロックは照れたように微笑い合った。
Fin
接触が無くてもラブラブ、になった…でしょうか…(^^;)修行不足!
2005.07.31
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