012.たぶん、僕は忘れてしまうだろう
にっこりと笑う彼女の、すぐ傍に居る自分。
どんな困難に遭っても、明るく前向きに進んできた彼女。
そして自分が一番辛いときに、傍に居てくれた彼女。
そんな彼女に、自分はどれほどのお返しができているだろうか―――。
「もっと彼女の、トリスの力になれれば、と思うのですが」
色恋沙汰に疎いシャムロックは、思いつめた調子で目の前のフォルテから目を逸らして俯いた。
「どうしたら良いのか…わからなくて」
「…で、オレに相談したって?」
「……はい」
深刻な様子のシャムロックを目の前に、フォルテは盛大なため息をついた。
この聖都のギブソン・ミモザ邸においての二人の部屋で、机を挟んで真っ向から向かい合う男二人。
傍目に見れば深刻そうな話なのかと思いきや、その内容は単に『恋愛相談』でしかないのだけれど。
当のシャムロックにしてみれば、それは『重大な問題』なのだ。
「……トリスに聞いてみりゃあいいじゃねぇか」
「聞くまでもないから、貴方に聞いているんです」
「聞くまでも無い、ねぇ…」
このバカップル、という言葉を飲み込んで、フォルテはこれまでの件の『彼女』―――トリスの様子を思い返してみる。
確かに、彼女は明るく元気で、誰にも分け隔てなく笑いかける。
けれどそのトリスが『仲間意識』とは別の感情をその表情を浮かべる時を、この目の前の騎士だけは分かっていないらしい。
『その表情を向けられる側』がこれでは、トリスも苦労するに違いない。
そう思いながら、フォルテはまた盛大なため息をついた。
「じゃあお前は、どう思われてると思ってるワケ?まさか『ただの仲間』とは、思ってねぇんだろ?」
「そ、それは…」
フォルテが逆に問いかけると、シャムロックの顔は見る見る真っ赤に染まっていく。
「で、でも、そういうことではなく、もっとこう、精神的にも対外的にも支えになれたらと…」
それ以上どうそうなろうって言うんだよ、という言葉をまた飲み込んで、フォルテは頭を掻きながら唸った。
「案外、十分その役目は果たしてるんじゃねぇの?」
「そんな!私が彼女にしてもらったことを思えば全然足りていない!」
「…シャムロックよぉ」
何度目か分からないため息をつきながら、フォルテは真っ直ぐにシャムロックを見た。
「恋愛ってのは、返す返さねぇじゃねぇだろうが」
「それは…そうですが」
「トリスが幸せそうにしてたら、お前だって嬉しいだろうが。恋愛ってのは、そーゆーモンじゃねぇの?」
人の心は読めないけれど、それでもきっと、理解しようとすればその心に近づく事はできる。
その人の傍に居て、それでその人が笑顔を返してくれたら、きっと―――その人の『支え』に、『力』になれているはずだから。
「ったく、ハタから見てればバカップル以外の何モノでもねぇっての」
「え?」
「なんでもねーよ」
手をひらひらと振りながら部屋を出て行くフォルテを目で追いながら、シャムロックは軽く息を吐いて目を閉じた。
きっと、これから何度もこんな問答を自分の中でも続けるのかもしれない。
その度に出た結論を忘れて、それでもまた同じ結論にたどり着くまで。
何度も悩んで何度も解決して、それはトリスが大切で、愛しいが故に繰り返されるだろうけれど。
―――それでも、君が大切だから。
Fin
難しいテーマだった…です…。ぱたり。
2005.07.31
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