008.一目惚れ
その人の目を、顔を、姿を見た瞬間。
身体が震えるような、泣きたくなるような、そんな苦しくて、けれどどこか甘いキモチになる。
どこかでなんとなく読んだ本に、『一目惚れ』がそういうものだと書いてあったような気がする。
その頃はそれが果たしてどのような感情なのか理解できなかった。
けれど一応『オンナノコ』であるトリスは、それがどういうものなのか、興味がないと言えば嘘になる。
一度、ネスティに聞いてみようかとも思ったのだけれど、言ったら絶対に『君はバカか?!』と返ってくるに違いないと、
寸でのところで自粛した。
ケイナは記憶を失っているし、アメルはコイバナにやたらと関心があるようなので、下手な誤解をされても困る。
で、あるから、トリスは一番無難で一番知っていそうな、先輩であるミモザに聞いてみることにした。
「ミモザ先輩は、そういうのってありますか?」
「んー、あるようなないような」
「それじゃわかりませんよぉ」
「ま、そんなのは人に聞いてどうなるってものじゃないでしょ。そのうち経験できるわよ」
「あたしは経験談が聞きたいんですよぅ。だって、もし『一目惚れ』した時、分からなかったらヤじゃないですか」
トリスの言葉に、ミモザはクスクスと笑うばかり。
「大丈夫よ。絶対気がつかないなんてコトないから」
そう自信満々に言い切られて、トリスはそうかなぁ、と不満げに首をかしげた。
恋の仕方なんて、人に教わるものじゃない。
それは分かっているけれど、だからと言って何も知らないままで居るというのもなんとも気持ち悪い話だ。
一目惚れ。
なんとなく運命的で、キレイな響き。
どんなに活発で向こう見ずなトリスでも、やはり憧れるシチュエーション。
目が合った瞬間に、身体が震えるような、泣きたくなるような、そんな苦しくて、けれどどこか甘いキモチ。
一体どんな感じなのだろうと思った。
胸が締め付けられるような、キモチ。
かつての同士の血の海の中で、嗚咽する背中。
悲しみを堪えて、自らの手で敬愛していた領主を切るしかなかった腕。
全てを呑み込んで、それでも変わらず優しい瞳。
―――シャムロックを見たとき、あぁこれがそうなのかも、と納得してしまった。
身体が震えるような、泣きたくなるような、そんな苦しくて、けれどどこか甘いキモチ。
「知ってた?私、シャムロックに一目惚れだったのよ?」
クスクスと笑いながら告白すると、件の騎士は一気に頬を赤らめて、哀れなほどに動揺した。
「え、でも、だって…初めて会った時、って」
「うん、そう。でもね、あそこでなんだ。同情とかじゃなくて、本当に自然にそう思ったの」
抱きしめて、思い切り泣かせてあげたいと思った。
彼の安心する場所を、自分が、自分だけが提供できたらと思った。
「…じゃあ、お互い様…という事なのかな」
「……へ?」
「私も、そうだったから」
ふいの告白。
真っ赤になりながら、それでもいう時は言うひと。
照れた顔をしながら、それでも言う事は言うひと。
「……ズルイなぁ、そのタイミング」
照れ隠しにそう言って、赤くなる顔を隠そうと目の前の腕に顔を押し付けた。
おわり。
ラブラブボンバー☆(笑)
2005.07.23
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