006.きのう見た夢

目が覚めた時、どうしようもなく心が痛んだ。

血に沈んでいく知った顔。振りかざされる剣。

…最近は、見なくなっていたはずの夢。

 

「…何、今日は夢見でも悪かった?」

 

そう言って顔を覗き込んでくるのは、トリスだ。

シャムロックは曖昧に笑って、いや、と一言だけ応えた。

よほどそんな悲痛な顔をしていたのだろうかと、思わず鏡を探してしまう。

―――今更、馬鹿にされるとは思わない。

少し前に、自分が全てを失ったことを知っている人たちに対して今更虚勢を張る必要もない。

まして、彼女――トリスは、『特別』だったから。

情けないと思いながらも、トライドラでの一件が中々割り切れずに…仲間の中で一線を引いてしまっていた自分の前に、真っ直ぐ向かってきた彼女。

自分の痛みを分けてくれと、一緒に泣いて笑っていたいのだと、そう言ってくれた彼女。

けれど、だからこそ。

 

「なんでもないよ」

「嘘」

 

否定の言葉に、即答の応酬。

 

「シャムロックってほんとに嘘付くの下手」

「そんな事、ないと思うんだけれど」

「そんな事あるの」

 

そんな悲しそうな顔して何が『なんでもない』のよ、と。

少し怒ったような口調で、トリスが眉を顰める。

 

「あたしには言いたくないのかもしれないけど、無理はして欲しくないって言わなかった?」

 

トリスだって、シャムロックの『騎士としてのプライド』を傷つけるつもりはない。

だから、『女』であるトリスに言いにくい事もあるだろうけれど、それでも『無理』だけはしないで欲しいと、そう言ったはずだった。

 

「言いたくないわけじゃ、ないよ」

「じゃあ、なぁに」

「…言いにくいだけ」

「同じじゃない」

「違うよ」

 

頬を膨らませて拗ねだしそうなトリスに、苦笑して。

 

「夢見が悪くて困る、なんて…子供みたいだろう?」

「…そうかなぁ」

 

どこか自嘲じみた口調のシャムロックに、トリスは首をかしげてうーん、と唸った。

 

「そんなの…大人も子供もないんじゃないの?あたしだって、たまにあるし」

 

まして、あんな過去を経験してしまっていたら仕方ないだろうと。

その語尾は濁して、トリスがにっこりと笑った。

 

「なんなら今夜は良く眠れるように、傍にいてあげよっか?」

「と…っ!」

 

昨日見た夢は、忘れられない、忘れてはいけない過去の夢。

だからと言って『今』を前向きに生きなくてどうするのかと、彼女は言った。

昨日見た夢は、自分の果たすべき約束。

けれど、未来へ交わす『約束』はそれだけではないはずだと。

シアワセなものもあっていいはずだと、彼女は言った。

だから、今を。

今を大事に、過ごそうと。

 

真っ赤になって、困ったようにトリスを見下ろす。

トリスは相変わらず笑顔のまま、シャムロックをどこか楽しそうに見上げている。

この笑顔を見ただけで、今夜はいい夢が見られそうだと思った。

それは、未来へのもうひとつの『幸せな約束』を予感させるものだったから。

おわり。

ヘタレ大好きだー(笑)
2005.07.13

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