004.波打ち際

夏も盛りの、ファナン…銀沙の浜。

周囲は海水浴を楽しむ人々でにぎわっている。

買出し帰りの道すがら、そんな光景を目にした。

 

「海水浴かー…いいなー…」

「トリス、泳げるの?」

 

トリスの呟きに、ミニスが意外そうに目を丸くした。

今日の買出し当番は、トリスとミニス。そして荷物もちとしてほぼ毎回借り出されているシャムロックと、逃げ遅れたフォルテの四人。

 

「失礼ねぇ。ちゃんと泳げるわよ。…でも、そう言うって事は――ミニスってばもしかして泳げないの?」

「…泳げるわよぅ」

「ほんとにぃ?アヤシイなぁ…」

 

ニヤリと笑って茶化すトリスに、ミニスは本当だもん!と小さく叫んで抗議を続けた。

そんな二人のじゃれあいを微笑ましく眺めていたシャムロックの耳に、フォルテの意外な言葉が入ってきた。

 

「海水浴ねぇ…いいんじゃねぇの?なんなら今日の午後にでもみんなで繰り出すか」

「え?フォルテも泳ぎたいの?」

「おう、好きだぜー、海」

「意外だわ…」

 

目を丸くしたのはミニスとトリスだけではなく、シャムロックも同じだった。

何しろこの破天荒な人から、『海や水泳が好きだ』などという言葉を一度も聞いた事がなかったからである。

 

「海がお好きだったとは知りませんでした」

「そうか?お前だって好きだと思うけどなぁ」

「は?…それは…キライでは、ありませんが」

「そうじゃねぇって」

 

ニヤリと笑うフォルテを前にして、シャムロックはなんとなく嫌な予感がした。

その先を聞いたら、きっと頭痛が起こるような予感。

 

「だってよ、海っつたら水着だぜ?水着っつったらそりゃーもう……」

「……………」

 

やっぱり。

呆れたようにため息をつきながら、それでもこの人はこれだから良いのだろうと思い直した。

どんな悪環境においても、決して『楽しみ』を忘れないというのは悪いことではない。

きゃらきゃらと楽しそうに笑う二人の少女を見ながら、ため息は苦笑交じりのものになった。

 

「困った方ですね」

「言ってんじゃねーよ、お前だって同類になるんだぜ。水着姿…想像したろ?」

 

ため息混じりに苦笑した台詞に、ニヤリと笑って返される。

誰の、とは言われなかったけれど、それはシャムロックにとっては言わなくてもわかりきった事で。

一気に体温が上がった気がして、何か言い返そうにも口をぱくぱくと開くことしかできない。

 

「おーおー、若いねぇ」

「ち、違います!!」

「何が?」

「おー、トリス。いやな、コイツがな、お前の水着――」

「さぁ!急いで帰らないと!!」

「え?ちょ…っ、シャムロック?!」

 

何時の間にか二人の近くに来ていたトリスの手を取って、先を行くミニスの元へとサクサクと進んでいく。

背後で、フォルテが笑う声がする。

 

「…ひょっとして、シャムロック海が嫌いなの?」

「違うよ。泳げないわけでもない。でも…」

「でも?」

「私は、二人で波打ち際で遊ぶほうが好きかもしれないな」

「…ふーん…そっか。なら、今度二人で遊びに来ようね」

 

そう言ってにっこりと笑う、少女。

誰にも見せたくない―――なんて、我侭。

彼女がどう思ったかは分からないけれど、シャムロックはこれ以後暫く、海を見ては少しだけ自己嫌悪に陥るのだった。

fin

そして余裕のない大人。(笑)工藤はミニスが大好きデスvv
2005.07.02

 

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