003.いじわる

鈍感なのに優しい人と言うのは、時として始末に終えない。

例えば誰かに『好意』を寄せられていたとしても、全く気が付かずにまた優しくするから、より一層話がこじれてしまうのだ。

 

「…トリスの気に障るようなこと…何か、したかな」

「思い当たるコトがあるの?ないなら気のせいでしょ」

 

憮然としたまま応えれば、不機嫌の原因が彼であることは明白だ。

こんな事ではいけないと頭では分かっているのに、トリスはそれをやり過ごせるほど大人ではない。

不機嫌な受け答えをされてしまった当のシャムロックは、困り果てたように頭を掻いて、虚空を見上げて何かしでかしたかと懸命に

思い出そうとしているらしい。

思い出せるわけがないのだ。彼は気が付いてないのだから。

街中で、ごろつきに絡まれていた少女を助けたことは覚えているだろう。

その少女に、今日『偶然』出会って改めてお礼を言われたことも勿論意識としては記憶しているだろう。

けれど、その少女の『偶然』が『必然』であったコトなどきっと一生気が付かない。

助けられてから毎日毎日、少女がいかにして『偶然』を装って彼と話そうとしていたかを考えていただなんて、

きっと生まれ変わっても思い至りはしないだろう。

そんな鈍感具合がまたシャムロックの魅力と言えばそうなのだけれど、トリスとしたら面白くないのもまた当然だ。

だから、意地悪をしたくなる。

彼は悪くないのに。勿論、件の少女だって悪くはないのに。

彼女は彼女なりに精一杯やって、その上でなんとかシャムロックに声を掛けることができたのだから、同じ『恋するオトメ』としたら

よくやったと褒めてあげたい位の快挙だ。

だから、意地悪をしたくなる。

素っ気無く憮然とした態度を取っていれば、シャムロックが何事かと動揺するのは分かっているから。

それが我侭なのだと分かっていても、したくなる。

ネスティ辺りに知れたらきっと『キミはバカか?』となじられるに決まっているような愚行。

そう、全部全部分かっているのに…どうしても。

 

顔を背けて、外を見る。

空はどこまでも晴れ渡っている。

それなのに自分の気分はどうだろう。

全然全く、晴れ渡ってこない。

 

「…えーと…、もしかして…昼間の、かな」

「!」

 

まさかそう応えてくるとは思わなかったので、驚いた勢いそのままに、思わず真正面からシャムロックの顔を見上げてしまった。

眼前に広がるのは、優しく微笑った見慣れた顔。

 

「正解?」

「…ち…っ、違うもん」

「……本当に?」

「………シャムロックってば、いじわるだ」

 

ぷ、と膨れて視線を外す。

今度は全く違った意味で。

 

「……ごめん」

 

苦笑交じりの謝罪の言葉に、ますます頬を膨らませて。

赤くなる顔を隠すために、顔を逸らせて小さく唸った。

これではどちらがいじわるをしているのか分からない。

 

前言撤回。優しくて鈍感なくせに、時々妙に鋭い人は本当に始末に終えない。

fin

微妙に大人の余裕なぞかましてみたり?(笑)
2005.07.01

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